大阪地方裁判所 昭和27年(ワ)1486号 判決
原告 清水幹雄 外三名
被告 清水芳子
一、主 文
原告等の請求は之を棄却する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
二、事 実
原告等訴訟代理人は「昭和二十六年十二月十二日大阪家庭裁判所受理に係る同庁同年(家)第四五二〇号及第四五二三号事件に於ける原告等の相続放棄申述の無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、右請求が理由ないときは「右各事件に於ける原告等の相続放棄の申述は取消されたことを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、其の請求の原因として「原告等は訴外清水登喜雄と被告との間の子であるが、右父登喜雄が昭和二十六年八月十九日死亡したため同人の財産の内三分の一を被告其の余を原告等が相続したのであるが、当時被告より原告等に対し父の財産は別紙目録<省略>記載の物件の内不動産のみであるから之を被告一人の所有とすることの承諾を求め、其の為には相続放棄の手続をしなければならないとのことであつたので原告等は被告の言う通り父には他に何等の財産も無いものと信じて之を承諾した結果請求の趣旨記載の通りの相続放棄の申述を為して受理された。所が其の後父登喜雄には不動産の外右目録記載の通り、相当の財産があることが判明したので、原告等が不動産以外に財産が無いものと信じて相続放棄の申述を為したのは法律行為の要素に錯誤があつたもので無効である。仍て右申述の無効であることの確認を求めるのであるが、仮に無効でないとすれば被告の詐欺による意思表示であるから本訴に於て之が取消の意思表示を為す。従て予備的請求として右相続放棄の申述が之により取消されたことの確認を求める。」と陳述した。<立証省略>
被告は原告の請求通りの判決を求め、原告主張事実はすべて認めると述べた。
当裁判所は職権により原告清水幹雄、同清水克の各本人訊問を為した。
三、理 由
被告は原告の請求通りの判決を求め原告等主張事実の全部を認めると述べているが、相続放棄の効力に関する事件は其の性質上人事訴訟事件に準ずるものであるから人事訴訟手続法第十条、第三十二条を類推適用すべきであり従て民事訴訟法中請求の認諾及び裁判上の自白に関する規定の適用は無いものと解するのが相当である。次に原告等の第一次の請求に付て考えるに、当裁判所が真正に成立したものと認める甲第一、二号証を綜合すれば原告等が訴外清水登喜雄と被告との間の子で、右登喜雄の死亡の結果原告等と被告とが遺産相続を為し次で原告等が遺産相続の放棄を為して受理されたことに関する原告主張事実はすべて明である。而して原告等は右相続放棄に付所謂要素の錯誤があつたから無効であると主張するのであるが、すべて財産法上の行為については取引の敏活と安全を重んずる見地から意思主義よりも表示主義が一層尊重される傾向があるに反し、身分法上の行為については、それが其の当事者にとつて、全生活の基盤であることから第三者に及ぼす影響よりも本人の意思に重きを置いて其の効果を決定すべきことは身分関係の本質上当然であり、此の為民法第四、五編には身分法上の行為の効力に関し民法総則と別個に特別の規定を設けている。ところが相続放棄の取消に付ては第九百十九条の規定があるに拘らず錯誤の場合に付ては何等の規定も存しないのであつて、此の点から考えると、身分法上の行為に錯誤のあつた場合については民法第九十五条を適用すべきではなく先きに述べた身分関係の本質に鑑み、専ら其の表意者に其の行為を為すの意思があつたか否かにより決すべきものと解する。従つて本件に付民法第九十五条の適用があることを前提として放棄申述の無効を主張とすることは失当と謂うべきであり、尚原告清水幹雄、同克、及び被告の各本人並に原告清水修特別代理人森健の各訊問の結果を精査しても原告等が相続放棄の何であるかを知つて此の行為を為したことは否定出来ないところであるから其の意思が無かつたとは認められず、結局右放棄申述の無効であることの確認を求める原告等の請求は之を失当として棄却すべきである。
更に原告等の予備的請求に付て考えると民法第九百十九条第二項の相続放棄申述の取消に付ては家事審判法第九条各号に掲げられていない為家事審判事件として取扱うべきか或は通常の訴訟手続に於て審理されるべきかに付ては疑の余地があるが相続の放棄が家庭裁判所に対する申述によつて為される以上其の取消も亦之に準じて同一手続によるべきものであつて、之亦家庭裁判所の管轄に属するものと解するのが相当であるから、右予備的請求も失当である。
仍て民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 沢井種雄)